平成23年6月5日(日)



 

「ご馳走さま」というと、今では食事のときの言葉のように思われますが、本来はどうしてそのようになったか不思議です。馳走とは文字通り車馬をはやく走らせるとか、年月は馬が早く走るように過ぎ去って行くというような意味であり、古文書などでは一般にそのように使われて来ております。それが食事を出したり人をもてなすように使われたのは我国だけのようであります。もちろん食事を用意する為にはあちこちから材料(食材)を集めたり、煮炊の用意をし料理するためにかけまわることから食事などのもてなしをするように使われるようになったと考えられます。その裏には日本人の物に対する豊かな感性がうかがわれます。僧侶が修行中食事の折に五観の偈という句を読んで食事をいただきます。その第一に「功の多少を計り彼の来処を量る」という句があります。この句は「多くのおかげを思い、感謝してこの食事をいただきます。」ということでこの心が即ち「ご馳走さま」の心であります。ご馳走さまばかりではなく、お世話さま、御苦労さまなど、私達は日常挨拶などで使いますが、その多くが相手の立場に立ってその労をねぎらい、感謝する言葉であり、日本語の一番美しいことばといわれる「ありがとう」と同じように美しい言葉と申せます。自分が周囲の人々からばかりでなく自然界すべてのものの力によって支えられて生きていることに感謝せずにはおられない、深い智慧をこの言葉は豊かに表しておるものであります。

大本山護国寺貫首 岡本永司