「売り言葉に買い言葉」という言葉があります。相手から受けた暴言に対し、こちらも同じような暴言をはいて言い返しついには喧嘩になってしまいます。
いずれにしても同じレベルで言い合い、言い返していて、互いの立場、互いの意地がぶつかり合い硬直状態におちいってしまいます。
こうしたかたくなな心は一朝一夕には、ほぐれずいつまでも私達の心を悩ませます。
「水よく石をうがつ」という言葉がありますが、一滴一滴たえまなく水が落ちてついには固い石にも穴をあけるようになる意味であります。
私達の心はともすると自分は正しい、自分は間違っていないと思い込む自分への執着心があり、それが硬直しがちであります。
執着心を捨てろと言われてもそう簡単に捨て切れないのが本心であります。
そうした時に毎日毎日少しずつでも仏の教えを思い起こし、かみしめ実行して行くことで次第にものの考え方、思い込みも変り相手をゆるす心が生れて参ります。つまり大きな包容力が育ち豊かな心になって参ります。
大きな心とは決して鈍感になるということではなく硬直し、固まった心を次第にほぐし、柔軟な心、やわらかく物事に処する心が生まれ、一日一日が新たな喜びをもって迎えられるようになることであります。仏教学の大家金子大栄先生は「人生はやり直すことは出来ないが見直すことは出来る」と申しておられます。人や物に対するに同じレベル同じ立場で処するのではなく別の角度、違った立場で見直す柔軟な心を育てて参りたいものであります。
大本山護国寺貫首 岡本永司